リスキリングとは?DX時代に必要なスキルと人材戦略、導入手順を解説
この記事でわかること
- リスキリングとは何か?なぜ重要性が急激に増したのか
- 企業がリスキリング実施を検討すべき理由
- リスキリングの導入と実践を成功させるための5ステップ
2022年5月、日本でも政策としてリスキリングに取り組むことが岸田文雄首相によって明言され、以来、「リスキリング」は注目のキーワードとなっているようです。
現在日本では、リスキリング(Re-Skilling)に「学び直し」という日本語訳が当てられたり、AIやRPAの技術革新による業務の自動化やDX化の加速によって、「リスキル=デジタル分野の職務で必要とされるスキルの習得」という認識がなされています。これらは、事象として間違いではありませんが、目的や背景を含めて正確に定義するには不十分な表現です。
本記事では、世界経済フォーラムでのリスキリング革命をはじめ、これまでのリスキリングに関する調査結果や研究報告、DX先進諸国のリスキリング成功事例などに基づき、リスキリングとは正確には何を意味し、なぜ以前にも増して重要性が叫ばれているのかを解明します。
今や職種や年齢に寄らずすべての人材がリスキリングを避けてはキャリア形成できない環境であり、リスキリングは、DX時代における企業の生き残りをかけた人材戦略です。
適切な学習コンテンツや教育プログラムの選定を含め、企業がリスキリングプログラムを計画・作成・実施する手順や、成功させるための重要な考え方も解説していますので、リスキリング導入で社内DXを加速させたい方も、デジタル人材の獲得・育成に苦戦している方も、ぜひ一緒にリスキリングを学びましょう。
リスキリングとは
リスキリングとは、「新しいスキルを習得し、それを実践できる新しい業務や職業に就くこと」です。
しばしば「Re-Skill=学び直し」という訳が当てられ、後述するリカレント教育の一環、あるいは延長線上に捉えられることがありますが、リスキリングは学びそのものが目的でなく、新しい職務でその学び・スキルを実践するところまでを含みます。
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること
海外では、AIやRPAの技術革新による業務の自動化とデジタル化が急速に進む中、この先のスキルギャップによる失業を未然防止するための解決策として、リスキリングの注目度が一気に高まりました。(詳細は、後述の「AIやロボットに代替される雇用」)
この経緯から、特に「リスキリング=デジタル分野の職務で必要とされるスキルの習得」を意味することが増えてきています。
クラウド・コンピューティング
デジタルマーケティング
AI(人工知能)
データ分析
UXデザイン
もちろんプロジェクトマネジメントや論理的思考力といったソフトスキルの重要性はDX時代においても変わりませんが、今後成長が見込まれる職業、および業界を問わず共通して将来需要が伸びそうなスキルや知識が何かを考慮すると、やはりリスキリングの主軸となるのは「デジタル分野」のハードスキルなのです。
これまでのスキルアップと何が違うのか
リスキリングは、これまで私たちが頻繁に使ってきた「スキルアップ」という言葉とは異なるものです。実は、スキルアップは和製英語で、英語ではまったく通じません。
ただし、英語にはスキルアップの語源となる「アップスキリング(Upskilling)=現在の職務において、より専門性が求められる業務や高度な責任を担うポジションに就くために、従業員の技術やスキルを強化すること」という単語があります。
アップスキリング:現状の職務でより活躍するために必要なスキルの獲得
リスキリング:現状とは異なる業務を行うために必要なスキルの獲得
リスキリングもアップスキリングも、従業員にトレーニングの機会や教育プログラムを提供することは同じですが、リスキリングは、スキル習得後にキャリアシフトを伴います。経理部の社員が、より高度な会計処理を実務で行えるように、企業法務のトレーニングを受けるのはアップスキリングです。
同じ人材育成プログラムにアップスキリングとリスキリングが組み込まれており、名称を使い分けないことも珍しくありません。たとえばコンサルティング会社のPwCではリスキリングの意味や活動も含めて「アップスキリング」と表現を統一しており、いわゆる日本語でのスキルアップ全般を指しています。
リスキリングとリカレント教育の違い
人生100年時代を見据えた生涯学習の一環として注目され始めた「リカレント教育」について、リスキリングとの相違点を解説します。
リカレント教育は、社会人になってからも必要なタイミングで学校などの教育機関に戻り、生涯にわたって学びと就労を交互に繰り返す教育方針やその仕組みのことです。リカレント(Recurrent)は、循環・回帰・反復などを意味します。
新しいスキルを獲得するリスキリングと似た概念に捉えられがちではありますが、リカレント教育は、学びのために「職を離れる」ことが前提となっています。仕事での能力向上やキャリア形成に役立てるものの、リカレント教育はあくまで「個人の自己実現」が目的です。
一方、リスキリングは、技術的失業に伴う人手不足、競争力低下といった企業課題の解決策として講じられるものであるため、企業が主体となって従業員にリスキリングの機会を提供します。
| リスキリング | リカレント教育 | |
|---|---|---|
| 期間 | 短期間(都度) | 長期間(サイクル) |
| 実施責任 | 企業や国・行政 | 個人 |
| 目的 | 組織体制の構築・人材育成 社会問題の解消 | 学び・自己実現 |
| 対象分野 | 主にデジタル分野 | 広範囲(個人の関心) |
| 講座提供 | 広範囲(オンライン講座など) | 大学などの教育機関 |
アンラーニングはリスキリングの実行プロセス
学習棄却を意味する「アンラーニング」との関係性についても触れておきましょう。アンラーニングとは、新たな知識やスキルを受け入れる態勢を意識的に作り出すために、既存の知識やスキル、成功体験などを捨てることです。
過去の知識や経験、慣習が新しいことを習得する弊害となってしまうケースはいくつかあり、たとえば、専門外の新しい分野に挑戦すると、自分が無知であることを認めざるを得なくなり、自己肯定感とともに新しいことを学ぶ意欲を低下させる要因となります。
また、自身が保有している古い情報やスキルに執着したり、過去の成功体験を引っ張り出して新しいトピックを拒否したりといったこともあります。
リスキリングでは、自分の専門とは異なる新しい分野やスキルを習得することが多く、必要に応じてプロセスにアンラーニングが組み込まれることがあります。特定分野のエキスパートとして認められており、知識や成功体験が豊富なベテラン社員は、リスキリングの準備段階としてアンラーニングが必要なケースが多いです。
なぜ今リスキリングが重要なのか?
リスキリング(Reskilling)が世界規模でのバズワードとなったきっかけは、2020年1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会(通称ダボス会議)における「リスキリング革命」の発表です。
AIやロボティクス、IoTなどのさまざまな新技術の変化を伴う第4次産業革命に対応するために、「2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」という構想であり、その実現に向けて各国政府が主体となって人材育成に関する政策を実施することになっています。
第4次産業が社会にもたらす変革として、最も重要視されているのが「デジタル化・DX化」「業務自動化」といったキーワードです。加速するDX化と自動化によって引き起こされる技術的失業を未然防止する対策として、リスキリングが世界中で注目されるようになりました。
そして2022年5月、ついに日本でも政策としてリスキリングに取り組むことが岸田文雄首相によって明言されました。以前よりもリスキリングという言葉を頻繁に聞くようになったものの、まだ実行計画の段階で浸透しきっていないため、「リスキリングは、労働者の一部をデジタル人材に育成するプロジェクトだ」といったような誤解もあるようです。
しかし、リスキリングはすべての企業・組織にとって避けられない人事戦略であり、また現在の職種や年齢に寄らずすべての人材がリスキリングを他人事にはできない環境となっています。以前にも増してリスキリングの重要性が高まっている理由を、現在に至るまでの背景とともにもう少し掘り下げてみましょう。
AIやロボットに代替される雇用
世界経済フォーラムは、毎年発行される「仕事の未来レポート(The Future of Jobs Report)」にて、仕事やスキルの将来的な需要予測やビジョンを発表しています。下記は、2020年10月のレポートにおけるエグゼクティブ・サマリー(要旨)で述べられていた内容です。
この先、人間・機械・アルゴリズムの間で分業が進むことによって、「2025 年までに、8,500万件の仕事が失われ、9,700万件の新たな役割が創出される」ことが推定されます。
引用元:The Future of Jobs Report 2020
これは、デジタルやオートメーション技術の進化によって、従来は人間が担ってきた業務の自動化が進み、生産性の向上によってAIやロボットに代替される雇用が出てくることを示しています。
その一方で、デジタルテクノロジーを活かしたビジネスモデルや成長産業においては新たな雇用が増えていくため、理論上は、そこに消失していく8,500万人の労働力をシフトすれば技術的失業は起きないということになります。
問題となるのは、多くの労働者が、新しく増える雇用で必要とされるスキルを持っていないことです。「DX時代に必要とされるスキル」と「現時点で労働者が保有しているスキル」に乖離があり、このスキルギャップが埋まらなければ、雇用の消失だけが進むことになります。
リスキリングは企業の生き残りをかけたDX時代の人材戦略
技術的失業を少しでも軽減するには、衰退産業から成長産業へと労働力のシフトを進めていかなくてはなりません。企業は、多くの労働者が仕事を失う前に、これから求められるスキルを新たに身につけるリスキリングを実施する必要性に迫られています。
雇用の消失と創出はすでに始まっており、DX推進に尽力する大企業や最新テクノロジーを扱うテック系スタートアップでは、今すぐにでも欲しいポジションがたくさんあります。しかしながら、求めるスキルの需要に対して労働者側のスキル供給が間に合っておらず、募集をかけてもマッチする人材がいないのが現状です。
現在の従業員のリスキリングやスキル向上への投資は、DX時代に競争力の高い企業として生き残るための条件となるでしょう。
コロナ禍で大きく変化した働き方の価値観
リスキリングを実施するべき直接的な背景ではありませんが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、人々の生活や働き方に対する価値観・希望に大きな変化をもたらし、テレワークの普及やEコマースの活用、DX化・自動化の傾向をさらに加速させました。
米マイクロソフトは、コロナ禍での失業者2500万人を支援するため、社外にもリスキリング講座を無償で提供しています。コロナ不況に苦しんだ業界や、ロックダウンで壊滅的なダメージを受けた企業で働いていた人が中心ではありますが、こうしたリスキリングの機会を積極的に利用することで、今までの仕事内容を見直し、新しい職業に就こうとする人も増えているのです。
一方で、このパンデミックをきっかけに、記録的なペースで自主退職者が増えていくという社会現象「Great Resignation(大退職時代)」がアメリカで起こっています。
業界によっては人員整理や解雇も起こっている中、自主退職を選ぶ理由は世代や職種、待遇などによってさまざまですが、コロナ禍が仕事やキャリアに対する価値観を大きく変えたことは間違いありません。
身近な人を亡くす経験をし、仕事中心の価値観やワークライフバランスを改めたい。
長時間の通勤に戻るのが嫌で、減給してでもリモートワークを継続したい。
以前よりも将来を真剣に考えるようになり、成長機会のない会社に不安を覚える。
この「Great Resignation(大退職時代)」は、アメリカにとどまらず、イギリスやオーストラリア、シンガポールなどでも起こっており、日本の労働市場にも飛び火しないとは言いきれません。
いずれにせよ、新型コロナウイルスの全世界での蔓延は、働く人々の価値観を大きく変え、リスキリングは「Great Resignation(大退職時代)」の対策としても、注目を集めることになりました。
不安定な世界情勢の中、人々はビジネスパーソンとして生き残るために、成長の機会を提供してくれる会社に魅力を感じます。自社で自身のキャリア形成に繋がるリスキリングを経験している従業員は、退職することなくスキルセットを拡大していくのです。
企業がリスキリングを導入するメリット
実際に、企業がリスキリングを実施することによって、組織・従業員・労働市場にどのような効果をもたらすのか、以下で解説します。
| 企業・組織のメリット | 従業員・個人のメリット |
|---|---|
| 人材の採用・教育にかかるコストを抑えられる 優秀な人材をキープできる インターナルモビリティを活性化する 従業員エンゲージメントを向上させる 企業のイメージアップにも繋がる | 雇用の安定化を認識できる キャリアの見通しが向上する 個人的な成長・スキルアップを実感する リスキリング経験が自身の市場価値を高める |
海外企業がリスキリングに積極的な理由
欧米のデジタル化・リスキリング先進諸国では、日本よりも何年も早くリスキリングに取り組み始めています。
現在も積極的にリスキリングの研究やプログラム開発を行っているのは、多くの成功事例から以下のようなリスキリングの重要性が明確になっているからです。
(1) 人材の採用・教育にかかるコストを抑えられる
企業にとって最大のメリットは、必要なスキルを持ち合わせる人材を新規採用するよりも、既存の従業員にリスキリングを実施した方が費用がかからないという事実です。
そもそもデジタル分野のスキルを持つ人材は希少であり、候補者を探すだけでも時間と費用がかかります。熟練度やポジションによってはより高い給与・待遇をオファーしなければならないでしょう。
また、新入社員のオンボーディングには、特定の業務だけではなく、会社のカルチャーや業務プロセス、ソフトウェア、およびセキュリティについてもトレーニングが必要です。既存の従業員はこれらすべてを十分に認識しているため、改めて教育をする必要はなくコストを節約できます。
さらに、新しく雇用した人材が、自社で才能を開花して成功する、あるいは別のオファーがあっても転職しないという保証はありません。
新入社員の採用と教育にかかるコストは、事業規模や業種、個々の経験値、トレーニング方法によって大きく変動するため、具体的な費用をベンチマークにすることはできませんが、eラーニングプラットフォームを展開するValamisは、熟練者の新規採用には、リスキリングによる育成より最大20%の多くの費用がかかると述べています。
(2) 優秀な人材をキープできる
デジタル分野に限らず、高度なスキルを持っている人材は引く手あまたです。外部から才ある人材を見つけ、また自社に留めておくのは簡単ではありません。
リスキリングを実施することで、自社の優秀な従業員を競合他社に奪われることなく、組織の価値を高める新しいスキルを習得してもらうことができます。既存の業務プロセスを理解し、カルチャーにも合っている人材であるため、新しい役割や部署にも適応しやすく、獲得したスキルをすぐに実践できるでしょう。
(3) インターナルモビリティを活性化する
リスキリングプログラムの実行や成果は、優秀な従業員を維持できるだけでなく、その次に続く熱心な人材を新たに惹きつけます。
これは、企業が新規雇用でなく現在の従業員を尊重し、社内で成長機会が得られること、またそれが新しい職務や昇進に繋がることを示すことで、周りの従業員や新しい従業員もリスキリングの機会を積極的に活用するようになるということです。
リスキリングは、社内で人材の流動性を持たせる「インターナルモビリティ」の実現にうってつけの施策と言えるでしょう。現在の職務とは異なる分野のスキルを伸ばし、それによって役割を拡大する機会が社内にあれば、従業員が同じ会社で働き続ける可能性も高くなります。
実際に、インターナルモビリティが活発な企業は、そうでない企業に比べて従業員の勤続年数が2倍長いことがわかっています。(LinkedIn-Learning_Workplace-Learning-Report-2021より)
(4) 従業員エンゲージメントを向上させる
従業員は、自分の専門分野以外のことや新しいスキルを学ぶ機会を与えられると、会社が自分を評価してくれていると感じます。
また、リスキリングの実施は、現在の業務が消失してしまった場合に、新しい役割や職務に就ける雇用保障があることを知らせる意味合いも持ち、従業員は自分が会社に必要とされていることを認識するでしょう。
エンゲージメントの高い従業員は、企業の生産性を向上させると言われていますが、eラーニングプラットフォームを提供するTalentLMSの調査によると、調査対象の従業員の80%が、アップスキリングやリスキリングのプログラムを受けたことで自信が付き、仕事の生産性が上がったと答えています。
(5) 企業のイメージアップにも繋がる
個々のスキルセットの拡張や成長、昇格の機会を提供するリスキリングプログラムの開発と実施は、従業員への投資に熱心な企業であることの象徴です。今後は、優秀な人材ほどリスキリング環境の整った企業を選択するようになるでしょう。
人材戦略としてリスキリングに取り組むことで、現在の従業員と将来の採用候補者の両方にとって、組織をより魅力的なものとし、政府や社会全体から見た会社の評判の向上にも繋がります。
従業員がリスキリングの機会を得るメリット
従業員側にもメリットがあるからこそ、高いモチベーションで自律的にリスキリングに取り組み、優秀な人材の定着に繋がります。
(1) 雇用の安定化を認識できる
従業員は、リスキリングを通して新たな業務や役割を果たすことができるため、経済的な不況や組織再建の際に、解雇やリストラの対象となる可能性が低くなります。
日本は解雇規制が厳しいと言われていますが、コロナ禍の影響が長期化する厳しい経済環境が続く中、希望退職者募集・早期退職制度という名のリストラがコンスタントに行われています。
DX時代を見据えた人員整理は、コロナ禍の以前から進行していましたが、緊急事態宣言から始まった消費者の断続的な行動制限によって企業の事業収益が圧迫され、多くの従業員を抱える大企業を中心に人員削減の動きが加速しました。
企業の存続がかかっているとは言え、事業縮小や構造改革に伴う余剰人員の削減は、あくまで経営事情であり、それをいきなり突きつけられる従業員はたまったものではありません。いきなり人員整理の対象となった従業員は、再就職をしようにも同じ職種や競合他社で働けるチャンスは限りなくゼロに近いと考えてもよいでしょう。
企業はリスキリングを実施しておくことで、不測の事態が起こった際でも業績悪化を打破する成長事業に人材を再配置でき、従業員の雇用を守ることができるのです。
(2) キャリアの見通しが向上する
リスキリングによって新しいスキルを身につけた従業員は、キャリアの見通しを向上させることができます。以前は応募資格のなかったポジションに自ら手を上げられるようにもなるでしょう。
すべてのスキル獲得がすぐさま昇進に直結するわけではありませんが、以前とは異なる役割や多くの責任が期待されることは間違いありません。そのために必要なスキルを習得するのであり、その先で実践する場がないのであれば、そもそもリスキリングプログラムの設計が間違っています。
自ら積極的に新しいことを学んでもらうには、その学びや挑戦が自身のキャリアを大きく成長させ、現在の組織内で昇格・昇給に繋がることを認識してもらうことが肝要です。
(3) 個人的な成長・スキルアップを実感する
従業員のリスキリングに対する達成感や充実感は、企業への満足度や職務の生産性に大きく影響します。自分の仕事の中で学び、成長を実感すると、従業員はより積極的に新しいスキルを習得しようとしたり、プロジェクトに関与して責務を果たそうとするでしょう。
リスキリングによって以前と全く異なる分野を学ぶ場合でも、現状とわずかに違う類似スキルを含む場合でも、自分自身の成長を認識することは一つの成功体験となります。
また、キャリアパスを自ら構築したいと考えている従業員は、リスキリングプログラムを活用して次のキャリアゴールを達成できるかもしれません。やりたいことを追求したい優秀な人材を流出させないためには、個人の希望するキャリアパスと企業の望むリスキリングの方向性を入念に擦り合わせておくことが重要です。
(4) リスキリング経験が自身の市場価値を高める
リスキリングプログラムの修了は、「自身のスキルセットを拡張し、遂行できる業務や役割が広がった」ことを証明します。つまり、リスキリング経験を積んだビジネスパーソンは、労働市場での市場価値が高まるということです。
多くの場合、リスキリングは数週間で済むような短期プロジェクトではありません。新しいスキルを学び、実務で使えるレベルにまで習熟するには、それ相応の時間がかかることは想像できるでしょう。
そうしたリスキリングを成功させた経験のあるビジネスパーソンは、たとえば以下のような能力を持ち合わせていると推察できます。
外部環境の変化を捉え、将来のために自分で行動を起こせる
新しい役割や業界への適応力がある
成功させるまで継続する忍耐力、目標達成能力が高い
学習能力が高く、物事の習得が早い(fast-learner)
リスキリング先進国の欧米では、すでに「リスキリング経験」が一つのスキルと捉えられており、いずれ採用条件でも重視されるようになるのではとも言われています。
リスキリングを計画し、実施するまでの5ステップ
実際に、自社でリスキリングプログラムを実践する方法を5ステップで解説します。
将来必要になるポジションやスキルを定める
従業員が現在保有するスキルを把握する
スキルギャップを可視化する
適切なトレーニング方法・教育プログラムを選ぶ
リスキリングを実施し、継続的に改善する
デジタル先進国である欧米各国では、AIが自動的に個人のリスキリングプログラムを組んでくれるスキルベースプラットフォームを活用し、上記のプロセスをより早く、より簡単に、定量的に実践している最新事例があります。
個人のスキル情報やキャリア目標、労働市場データなどからスキルギャップを特定し、推奨カリキュラムや学習教材のオプション、社内メンター(該当スキルの上級者)を提案してくれるというものです。スキル数や講座消化数、これまでの所要時間などをモニタリングしながらリスキリングプログラムを実践できます。
ステップ1. 将来必要になるポジションやスキルを定める
導入背景に戻りますが、リスキリングは、「DX時代で必要とされるスキル」と「労働者が保有しているスキル」の差によって失われる雇用と人材不足を解消するための手段であり、そのスキルギャップを組織内で埋めていくプロセスです。
データサイエンスやプログラミングの講座を提供しても、それが自社にとっての成長分野に関連性が低ければ成果に結びつきません。経営戦略に基づき、将来どのようなポジションやスキルが必要になるかを定めます。
デジタル分野のハードスキルは市場ニーズが変化しやすく、テクノロジーの進化とともに新しく派生形スキルが生まれていく(たとえば、ブロックチェーン⇒NFT開発スキルなど)ため、中長期的な需要予測が難しいですが、リスキリングの計画においてやはり「将来自社に必要になるハードスキルが何か」を明確に定義しておかなければなりません。
以下は、米国テキサス州のITカンパニーBlueera Technologiesが発表した「2025年まで高い需要が見込まれるハードスキル」です。(参考:Top 10 In-Demand Skills for 2025)
・AI/機械学習
・データ分析
・デジタルマーケティング
・ソフトウェア/アプリ開発(UX/UI・ブロックチェーン)
・IoT など
これらのスキルは、ここ数年の需要と供給が追いついていない状況を見ても、しばらく必要とされると予測できます。
ステップ2. 従業員が現在保有するスキルを把握する
次に、自社で働いている従業員がどのようなスキルを持っているのか、リスキリング対象となる従業員のスキルの棚卸しを行います。
従業員のスキルは、履歴書や人事評価シート、保有資格などを活用するほか、個人面談や本人評価、同僚からのフィードバックを通じて、定量・定性の両面から把握できます。
ただし、デジタル分野や新しい職種に関するスキルについては、そこに特化したチェック項目がなく、既存の管理シートでは「誰が何のスキルをどのくらいのレベルで使えるのか」をほとんど記録できていないかもしれません。

前述したようなスキルベースのAIプラットフォームやタレントマネジメントシステムを利用すれば、職務経歴や人事異動データ、過去の学習歴などから簡単にスキルマップを作成可能です。
ステップ3. スキルギャップを可視化する
将来必要になるスキルを策定し、そのポジションに就く可能性のある従業員が現在保有するスキルの棚卸しができたら、両者を比較します。そこで明確になるスキルギャップが、その従業員に実施すべきリスキリングの学習項目です。
ステップ2.の従業員のスキルマップが詳細で正確であるほど、時間やリソースの無駄を抑えたトレーニングプラグラムを構築できます。はじめてリスキリングに取り組む際には、過度に緻密な設計を行う必要はありませんが、構造上の仕組みとして認識しておきましょう。
ステップ4. 適切なトレーニング方法・教育プログラムを選ぶ
従業員のスキルセットは一律でないため、理想としては、従業員ごとにスキルギャップを埋める教育プログラムを個別化して組みたいところです。従業員が必要とするスキルや知識を効果的に習得できるように、適切な学習コンテンツを選定します。
複数人のグループで学べるワークショップや、経験豊富な従業員がメンターとなって実践的な知識やスキルを身につけるOJTなどを含めて、自社内部でトレーニングプログラムを開発することもできますが、海外のリスキリング成功事例では、eラーニングや外部セミナーの受講、コーチングサービスなどのアウトソースを活用するのが一般的です。
そもそもデジタル分野に従事する部門がない場合、すべての学習コンテンツを内製化しようとする必要はありません。デジタル分野のハードスキルは、社内外や業界を問わず共通していることが多く、外部の学習コンテンツや実績のある人材育成支援を利用した方が、費用と時間を節約できるケースが多いです。
ステップ5. リスキリングを実施し、継続的に改善する
計画が整ったら、従業員にトレーニングを受けてもらいリスキリングプログラムを開始します。この際、トレーニングの進捗状況を定期的に確認し、タイムラインやリソースの予算配分、評価方法なども必要に応じて修正・調整を行いましょう。
また繰り返しますが、リスキリングは単なる学び直しやスキルアップとは異なり、従業員が教育プログラムを修了することがゴールではありません。「新しく習得したスキルを実践できる業務や役割に就く」までたどり着いてはじめて達成となります。
スキル実践の機会があることは前提として、実践結果に応じて追加のトレーニングを導入したり、次世代のリスキリング候補者にフィードバックするなど、継続的にリスキリングプログラムを改善する取り組みが必要です。
リスキリングを成功させるための重要な考え方
リスキリングは、組織が柔軟に変革していくための人材戦略であり、企業が主体となって実施するものですが、やはり学ぶ本人が積極的に取り組まないことにはスキル習得も配置転換も成功しません。
従業員は自律的に学びやキャリア形成に向き合い、企業はそのプロセスの設計から成功をサポートするといったように、双方から目標達成にアプローチする関係性が求められます。以下に「従業員に自発的に学んでもらいリスキリングを完了させるには?」について、重要な考え方を説明します。
学びやスキル習得の先に良いことがある
日本人は、世界で最も学ばない国民だとされており、ごくわずかな「学ぶことそのものが好きな人」や「自分のキャリア目標が定まっていて、そのために新しいことに取り組める人」を除いて、ほとんどの社会人は自己啓発の習慣を持っていません。
リスキリングを推進するにあたって致命的な課題ではありますが、一般社団法人 ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤 宗明氏は、日本人の学習行動の低さは国民性ではなく、「学ぶことが昇進・昇給(良いこと)に繋がらず、かと言って解雇(悪いこと)が起こるわけでもない」日本の労働環境や職場文化に実態があるのではないかと述べています。
会社都合でeラーニングや社外研修の受講を勧めても、学びの先に従業員にとって良いことがあると確証がなければ、能動的に学習に取りかかりにくく、長続きせずに辞めてしまうのも仕方ありません。
リスキリングは、知識やスキルを学んで終わりではなく、その先の業務や役割に直結するところまでを含みます。戦力外や人員整理の対象にならないようにするためであれ、新しいポジションに昇格して活躍するためであれ、従業員が学習行動を起こす明確なゴールを持てるように方針を提示しましょう。
リスキリングは自己啓発でなく業務である
リスキリングは、会社が必要とする人材育成・スキル開発であるため、従業員にとっては仕事の一環であり、たとえば学習コンテンツの消化も業務上のタスクです。基本的には就業時間内に行うことが望ましく、就業後や休日に取り組んだ分は時間外手当を支払う対象となります。
まず、帰宅後や休日の時間を使わせるような時間的余裕のない環境では、従業員に過剰な負担がかかり長続きしません。睡眠時間を削った朝活や、ちょっとしたスキマ時間をいかに活用するかにフォーカスした学習法も、一部の寝食を忘れて没頭するような「学びの強者」のみに役立つ理論です。
オンライン講座型のリスキリングは自主性に任せると失敗する
リスキリングは、従業員個人のキャリア形成に大きく影響することもあり、リスキリングをする本人が積極的に取り組める分野でなければ長続きしにくいのは確かです。かと言って、「デジタル分野の教材を豊富に揃えたので、リスキリングに使ってください」というやり方では高確率で失敗します。
そもそも、この自主性に任せた方式は、リスキリングを業務でなく福利厚生の自己啓発メニューのような形で導入しているのではないでしょうか。そのようなケースでは、業務量が減らない状態で講座受講を促されても、本業を優先してオンライン講座は常に後回しになってしまいます。
また「個人が主体となって好きなことに取り組み、キャリアチェンジを試みる」のは、企業の変革ニーズに基づく人材戦略を実現する手段であるリスキリングとは本質的にも異なります。
リスキリングは、従業員の自主性に任せるのでなく、従業員の自主性を尊重したプログラムを企業が組まなければなりません。個人の希望と企業の方針に整合性を持たせるようにすり合わせを行いながら、従業員がリスキリングを成功させる環境を整えましょう。
リスキリングに関するよくある質問と回答
以下は、2025年まで需要が高いと予測されているデジタル分野のスキルです。
- クラウドコンピューティング
- AI・機械学習
- データ分析
- デジタルマーケティング
- ソフトウェア・アプリ開発(UX/UI・ブロックチェーン)
リスキリングでは、自社の事業戦略や労働市場の需要予測に基づき、将来必要になるスキルを選定しますが、AI・ロボットによる業務の自動化・DX化の加速によって、「リスキリング=デジタル分野の職務で必要とされるスキルの習得」を意味することが増えてきています。
リスキリングにかかる時間は、既存のスキルセットから新しいスキルの複雑さ、トレーニング方法、個人がトレーニングに専念できる時間などの要因に左右され、一概に平均時間を個々のユースケースにあてはめることはできません。
たとえば、数週間から3か月程度で修了できるeラーニング講座もあれば、半年から数年かけてリスキリングプログラムを組んでいる企業もあります。
また、講座受講などの最初の取り組みが完了した後でも、継続的な学習とレベルアップが望ましく、習得したスキルを実務に活かせているか、新しい役職で狙い通りの活躍ができているかなどのフィードバックも欠かせません。
リスキリングは、従業員1人に対する一度きりのイベントではなく、テクノロジーと労働市場の変化に対応するための継続的なプロセスであることを念頭に置きましょう。
まとめ
リスキリングは、「デジタル化が大事なのはわかっている、もっとDXを加速させたい。けど肝心の人材がいない…!」を打破するための解決策として注目され始めた人材開発の施策です。
すでに欧米諸国では、リスキリング経験が技術革新やビジネス環境の変化に対応できるビジネスパーソンのスキルの一つと認識されはじめています。そうした組織のタレントプールを強化する重要な人的資本に企業は積極的に投資していかなければなりません。
日本はデジタル化やリスキリングに出遅れてしまいましたが、欧米諸国の豊富なユースケースをはじめ、整理されたカリキュラムや学習コンテンツといったリスキリングの実現に必要なリソースは豊富に揃っています。
学習行動を起こしてもらうためのマインドセットや、従業員が保有するスキルの可視化など、はじめてのプログラム設計には難しい点もありますが、デジタルツールや人材育成コンサルティングを取り入れながら継続的に取り組んでいきましょう。
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